同じことを繰り返すわけにはいかない──。
強い覚悟を胸に臨んだ2025シーズンだったが、その願いは叶わなかった。
「どんな試合でも、監督が代わっても、ずっと先発に選んでもらってきた中で、なんとかしたかった。でも……実力不足です」
横浜FC加入以降、3シーズンにわたり最終ラインの要を務めてきたンドカボニフェイスは、J2降格という厳しい現実を静かに受け止める。
ただ、ここまで培ってきた経験を糧に、チームに欠かせないDFとして、死力を尽くしてきたのも事実だ。
2年前を知る一人として、期待と責任を背負い、誰よりも長くピッチに立ち続けてきた中での成長と苦悩、そして見つけた理想の選手像とは。
“「真のDFリーダー」になるために”
ンドカボニフェイス DF 2

取材・文=北健一郎、青木ひかる

クラブにとってのミッションであり、個人の目標でもあった『J1残留』には、あと一歩届かなかった。
「今度こそやれる」という自信はあった。
「2023シーズンは初めてのJ1で、チームメイトには一緒にプレーをしたことがない選手ばかりでした。
でも今年は、J1の強度やスピードもわかっていたし、新戦力も含めて、過去に一緒にプレーしたことがある選手も多かった。
戦い方も、去年から継続してきた『堅い守備』をベースにという方針がある中で、『このチームの中核を担うのは自分だ』という思いでした」
開幕戦はFC東京に0-1で敗戦したものの、第2節のファジアーノ岡山戦でシーズン初勝利を飾った。
その後は接戦での敗戦、引分けを重ねながら、第6節のセレッソ大阪戦では、2-0の完勝を収め、今季2勝目をつかみ取った。
「序盤は本当に悪くなかったと思うし、地道に勝点を積みながら、内容をもっとよくしていけるし、得点も取れるチームになれるんじゃないか。そういう感覚はすごくありました」
『今年の横浜FCは、一味違うのではないか』。
たしかな“手応え”を感じながら、リーグ戦のスタートを切った。


開幕から10試合を戦い、3勝3分4敗。1点差で敗れる“惜しい試合”が続いていた。
次に着手したのはいかに勝点「0」を「1」にし、「1」を「3」にしていくのか。
だが、“惜しい試合”を落とし続けたことで、「選手間で迷いが出てきてしまった」と、ボニは唇を噛む。
きっかけとなったのは、第10節のアルビレックス新潟戦だった。
結果はスコアレスドローとなったものの、ポゼッションサッカーを志向する相手に自由にパスを回され、劣勢が続いたことで、チームは守備のやり方にテコを入れた。
「それまでは、ある程度ミドルゾーンで構えつつ、奪い所ではしっかりボールホルダーにアタックして守る、というやり方でした。でも、想定以上に押し込まれる時間が長くなって、本来自分たちが基準とする位置よりも、ラインが低くなる試合が増えてしまった。それだと失点のリスクも増えるし、奪ってもゴールまで遠くなって、より得点しづらくなる。だから、もう少し前でボールを奪うような守備をやろう、と」
しかし、ゴールに迫る回数は増えたものの、思うように得点につなげることができない。逆に、隙を突かれて失点が増えていった。
「もともとヨモさん(四方田修平前監督)は、攻撃面に関してはアイデアを与えつつも、選手の意見や判断、センスを尊重する監督でした。去年は各々の武器を生かしながら勝ちを重ねながら、だんだんと方向性が定まることで、一体感のあるチームになれた。ただ今シーズンに関してはそれがうまくいかず、攻撃につなげる守備に関しても、試行錯誤が続いてしまった。そこを整備できなかったのは、自分にも責任がある」
“惜しい試合”から“完敗”の試合が増え、気づけばリーグ戦7連敗。そして7月23日には、四方田前監督の解任が決定した。


「フミさん(三浦文丈監督)が就任して、腹を括って『こうやるぞ』と提示をして制限をかけてくれたことは、連敗を脱する大きな転機になりました。ただ、ヨモさんにも信頼してもらっていた中で、自分がもう少しうまく統制していれば……という不甲斐なさはあります。この1年で、“横浜FCのリーダー”にはなれなかったのかな、と」
自分がチームの主軸だという自覚は、もちろんあった。
ただ、崩れないための支えとなるだけではなく、「導く」存在になるための行動が足りなかったのではないか、と振り返る。
「まずは、もっと『ついていきたい』と思えるようなプレーをしなきゃいけなかったというのが、一つ。その上で、味方にもっと強く要求したり、自分主導で選手同士、思っていることを、もっとはっきり言い合う場を設けたり。そこでまとめた意見を持って、監督と話をするとか……。全員がそれをしてはいけないけど。でも自分はもしかしたら、やってもいい立場だったのかな、と」
独りよがりのものになれば、単なるワガママと捉えられる可能性もある。
ただ現状「J1残留」という目標に対してクラブとしても成功体験がなく、試行錯誤が続く中、チームの指針を方向づけるアクションをしても良かったのかもしれない、と自らの考えを語る。
「FWは、個人の結果にこだわることが、チームのためになる。でもDFは、チームのことをまず第一に考えることが、自分の評価につながるポジションだと思っています。そういう責任を背負うことで、よりプレーの質も上がっていく。そこを突き詰められなかったことが、今年の一番の反省です」

ピッチ内外の振る舞い、1試合単位でのミスや選択を思い返せば、「あの時ああしておけば」が尽きることはない。
ただ、『もっといい選手になりたい』という思いがある限り、ベテランに差し掛かる30歳になってもなお「まだまだこれから伸びていける」と、前を向く。
「スピードやパワー、体のコンディションもまだまだ上げていけると思うし、ピークはまだ先にあると思っています。それは選手としてもだし、一人の人間としても。いろんな成功も失敗もしながら、もっともっと強くなっていけるはず」
その姿勢は、横浜FCというクラブにも、当てはまるものでもある。
「もちろん、目標を果たせなかった責任も感じているし、応援してくれたサポーターのみなさんには、申し訳ない気持ちです。でもこの経験は、今後に生かしていくしかない。まずは残りの試合、横浜FCと自分の未来のために、今できる全力を出して戦います」
高みを目指すことを辞めない限り、進化は続くと信じ、ボニは力強く一歩を踏み出す。
チームを導き勝利をもたらす、“真のDFリーダー”となるために。

ンドカボニフェイス/DF 埼玉県越谷市出身。1996年2月15日生まれ。183cm、89kg。
6歳で地元の越谷サンシンサッカースポーツ少年団でサッカーを始め、セレクションを受け大宮アルディージャジュニアユースへ。卒業後は高校サッカーの名門・浦和東高校に進学すると、2012年にはU-16日本代表候補に選出された。大学では日本体育大学へ進学し、3年次にはインカレの準優勝に貢献。2018年に水戸ホーリーホックでプロデビューを飾ると、2020シーズンには自己最多の36試合に先発出場を果たす。2021シーズンに東京ヴェルディに移籍し2年間プレーしたのち、2023シーズンに横浜FCへ加入し、その後念願のJ1デビューを叶えた。幼少期から培った“ファイター精神”とフィジカルの強さを武器に、最終ラインの要を担い、チームのピンチを救う。