横浜FC

取材・文=北健一郎、青木ひかる

 

2023年3月18日、ニッパツ横浜FCシーガルズの2023プレナスなでしこリーグ1部での戦いが幕を開けた。

 

第1節のASハリマアルビオン戦でチーム開幕初ゴールを決めたのは、2022シーズンに横須賀シーガルズからトップチーム昇格を果たしたFW・室井胡心(むろいここ)。

 

味方からのパスをフリーで受け取り、冷静に右足を振り抜いた。

 

「サッカーがとにかく楽しくて、シーガルズが大好き」

 

そう話す室井の言葉は、ゴール後のとびきりの笑顔に現れ、その笑顔は周囲をパッと明るくさせる力を持つ。

 

「一人でも多くのファン・サポーターの皆さんと一緒に勝って笑って過ごしたい」

 

天真爛漫な生え抜きのストライカーが、新たに背番号“8”を受け継ぎ、新たなシーズンを迎えた。

 

 

 

大好きなサッカーを、

大好きなシーガルズで。

ニッパツ横浜FCシーガルズ FW 室井胡心

 

好きなことを、好きなだけ

 

母はバレーボール経験者、父は高校のサッカー部の監督とスポーツ家系で育った室井は、抜群の運動神経を生かしながら、身体を動かす様々な習い事に取り組む幼少期を過ごした。

 

「やりたいといった習い事を全部やらせてもらいました。あとは、小学校1年生から6年生まではずっとリレーの選手で1位を取っていて、走る競技で負けたことがなかったですね」

 

好奇心旺盛な性格も相まって、体操、水泳、ダンスと色々なことに挑戦した。

 

しかし、監督としての父を間近で見ていた影響もあってか、小さい頃は「サッカーだけは、絶対やりたくないと思っていた」と話す。

 

そんな室井に対しても、両親は競技を無理強いするようなことはせず、「好きなことを好きなだけやればいい」と、彼女の意思を常に尊重してくれたそうだ。

 

「サッカーはやらない」

 

そう豪語していた室井だったが、とあるきっかけで、競技に対する気持ちが一変する。

 

「たまたま、テレビで男子の全国高校サッカー選手権の決勝戦が流れていたんです。内容はあまり覚えていないんですが、『あれ?面白そう!』と思って。本当は小学3年生になったら陸上を始めようと思っていたんですけど、その前にサッカーを始めることにしました」

 

 

小学2年生の夏にFC大庭レディースに加入し、サッカーに夢中になった少女は、どんどんと“点を取る楽しさ”にも魅了されていく。

 

小学生年代の全国大会のひとつ、全国少年少女草サッカー大会では、小学3、4年生の低学年の部で2年連続の得点王、5、6年生の高学年の部でも2年連続で得点王に輝いた。

 

「当時のことはよく覚えていて、6年生では初戦で13得点したんですけど、外したシーンもたくさんあったので悔しい気持ちが強かったですね。今でもその気持ちは変わらなくて、決めた嬉しさより、外した悔しさが勝つ試合も多いです」

 

もっともっとサッカーが上手くなりたい。

 

より高いレベルの環境を求め、中学1年生の春にセレクションを経て、ニッパツ横浜FCシーガルズの育成組織である横須賀シーガルズ女子への加入を決断した。

 

 

スランプを救った、憧れの存在

 

試合時間のなかで、1点でも多く点を取りたい。

 

ゴールへの貪欲さを持ちつつも、室井にはどんな時も“楽しんで”プレーしたいという軸がある。

 

「中学校に上がるタイミングで、いくつかのチームで練習に参加させてもらいました。最後に参加したのがシーガルズで、やってるサッカーも含めて1番楽しかった。セレクションのお手伝いをしてくれた1個上の先輩も、皆さん明るくて優しくて、受かったらここに通おうと決めました」

 

無事に合格を決めた室井は、シーガルズの一員としてのキャリアをスタートさせる。

 

「中学1年生で、初めてトップチーム(ニッパツ横浜FCシーガルズ)の試合でボールパーソンをする機会がありました。その時に、自分もここでやりたいという明確な目標ができました。このチームで上を目指したいと思った瞬間でしたね」

 

 

選手として上を目指す理由ができたことで、同時に自分自身のプレーについて悩むことも増えた。

 

「中学2年生の県予選で、負けてしまって、2年連続で全国大会に出場できなくて。その試合にも出場したんですが、すぐ交代になってしまった。自分の良さってなんだろうと、その頃はすごく悩んでいましたね。悩むとそれがプレーに出てしまって、上手くいかなかったことも多かったです」

 

心の支えになったのは、当時横須賀シーガルズの代表を務め、ニッパツ横浜FCシーガルズの選手としてプレーしていた山本絵美(現ちふれASエルフェン埼玉)だった。

 

「中学1年生からずっと絵美さんに憧れていて、いつか一緒にプレーしたいと思ってやってきましたし、大きな目標のひとつでした。ひたすらプレーを見て、トップチームでプレーするにはこのままじゃダメだと思いました。そこからもう一度自分自身と向き合って、意識や考え方が大きく変わりましたね」

 

当時の写真(中央が室井、左から2番目が山本(現ちふれ))

 

 

 

スランプから抜け出した室井は、中学3年生ではキャプテンを務め、同期の18人の選手とともに戦った。月1で選手だけのミーティングを重ね、試合前のウォーミングアップの声出しから、チームが一体となることを心がけた。

 

「結果として、目標にしていた全国制覇までは至らなかったのですが、2年越しに全国大会への出場を決めました。みんなうれし涙でいっぱいで、中学生時代の一番の思い出ですね」

 

その後も順当にステップアップした室井は、高校1年生ではついに2種登録選手としてトップチームでのデビューを果たし、念願だった山本絵美とともに、トップチームのユニフォームを着てピッチに立つ夢を叶えた。

 

「本当に嬉しくて、嬉しくて、幸せすぎました。試合中一緒に写ったり、ハイタッチをしている写真があるんですけど、今でもスマートフォンの背景の画像に設定してるんです」

 

チームが離れてしまった今もなお、憧れの背中を追いかけ続ける日々は続いている。

 

 

 

 

 

 

最後まで同期6人で

 

高校進学にあたり、室井は横須賀シーガルズでプレーを続けることをチームのなかで一番に決めたそうだ。

 

「昔の自分じゃ信じられないですけど、今までサッカーを辞めたいと思ったことは一度もないんです。ただただ楽しくて。高校に入ってからも、月から金まで練習をして土日は試合があるのに、学校の休み時間にサッカーをするくらいでした」

 

一方で、周りの高校生は皆、放課後に遊びに行ったり、アルバイトをしたりと自由な学生生活を楽しむ友人も多くいる。

 

『自分も普通の女子高生になりたい』『サッカーはここで区切りをつけて、新しいことにチャレンジをする』

 

様々な理由で競技を離れる仲間たちもいるなか、18人いた同期のうち、室井を含めた6人がU-18チームである、横須賀シーガルズJOYに昇格した。

 

高校1年生から主力として試合に出場し、2019年には神奈川県女子ユースリーグで優勝を果たし、カップ戦でも得点王を獲得する活躍を見せた。

 

中学に続いてキャプテンを務めた室井には、ひとつ心に決めていたことがあった。

 

「真面目でしっかり者な“キャプテンらしいキャプテン”ではなかったですが、ほかの6人のなかには、悩んだ結果、『胡心が行くなら』と続けることを決めてくれた仲間もいました。なので、6人で最後までやりきるために自分ができることをしようと思っていました」

 

同時に、2種登録選手としてトップチームでプレーを続け、2足のわらじでハードなスケジュールをこなした。そして高校3年生の秋、正式にトップチーム昇格が発表された。

 

 

 

 

このチームで、さらに上の舞台へ

 

迎えた、2022プレナスなでしこリーグ1部の開幕戦。

 

室井は背番号18のユニフォームを着て、スターティングメンバーとして夢の舞台に立った。

 

 

 

 

「高校生からトップの試合には出させてもらっていましたが、開幕戦はやはり緊張していましたね。思い切りやれば大丈夫だよと先輩たちが声をかけてくれて、自分の良さを出すことを考えて思い切ってプレーに望むことができました」

 

 

開幕から続けてスタメンとして出場を続け、第4節の日体大SMG横浜戦では、初ゴールをマークした。

 

 

「その前の(朝日インテック・ラブリッジ)名古屋戦で、自分のシュートからゴールが決まったのですが、記録上はオウンゴールになってしまって。なので、次の日体大戦で決めることができて、安心しました」

 

 

 

小柄な室井にとって、高校年代との一番の差はやはりフィジカル面だった。

 

「スピード、体格も全然違くて今まで戦ったことのない選手がたくさんいるなと。大きなギャップを感じましたが、それでも自分より上の選手に1対1で勝ったり、どうやったら勝てるかというのを考えるのも楽しかったです。選手として成長できた1年でした」

 

そして、今シーズンは同じく育成時代からシーガルズ一筋でプレーし、2022シーズン現役引退を発表した大先輩の宮下七海から、“背番号8”を受け継いだ。

 

「昨年末の練習終わりに、七海さんから『一緒に走ろう』と声をかけられて、引退することを聞きました。それで、『FWだから、10とか11とかをつけられると思うけど、胡心にできれば背番号を受け継いで欲しい』と言ってもらって、8番をつけることを決めました」

 

 

 

 

生え抜きの選手としてこの番号を背負い、目指す場所はWEリーグへの参入だ。

 

「このクラブが大好きで、ずっとここでやっていきたいという気持ちは強いです。ただ、プロサッカー選手としてプレーしたいという思いももちろんあります。このシーガルズで、WEリーグに行けたら1番最高です。そのためにも今シーズンは、より結果にこだわることが必要です」

 

 

今季は新たに就任した石田美穂子監督のもと、流れるようなパスワークを軸に、見ていて面白いアグレッシブなサッカーを目指す。

 

 

「自分はスピードに乗ったドリブルやシュート、裏への抜けだしを武器にしているので、そういったプレーをファン・サポーターの皆さんには注目して見てほしいです」

 

 

個人としての目標は、全試合出場とチーム内得点王。

 

 

「背番号8にちなんで、今年は8得点を目標にしたいと思います」

 

 

そう言って室井はまた満面の笑顔を見せ、多くの想いを胸に、新たな戦いに挑む。

 

 

 

 

 

プロフィール

室井 胡心(むろい ここ)

神奈川県茅ケ崎市出身。2003年10月16日生まれ(20歳)。身長153センチ。ニックネームは「ここ」。小学二年生の時にFC大庭レディースでサッカーを始める。中学校進学と同時に横須賀シーガルズ女子へ加入すると、2018年には中学2年生ながらトップチーム・ニッパツ横浜FCシーガルズに2種登録、同年皇后杯で初出場を果たす。2019年になでしこリーグ初出場を果たし、2021年秋に正式にトップチーム昇格が発表された。持ち前の爆発的なスピードを武器としたドリブルでの突破力に加え、前線でのキープ力にも長けたフォワード。加入1年目は8得点とチームに大きく貢献した。好きな食べ物はお母さんが作った餃子。現在は、横浜FCサッカースクールでコーチも勤める。

 

 

試合情報

4月9日(日)13:00KICKOFF

2023プレナスなでしこリーグ1部

ニッパツ横浜FCシーガルズ vs. 大和シルフィード

@ニッパツ三ツ沢球技場

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