横浜FCの女子チーム「ニッパツ横浜FCシーガルズ」は2022シーズン、チーム発足10周年を迎えた。
宮下七海と中居未来は、「横浜FCシーガルズ」発足当初からの在籍メンバーである。
「一瞬でした」と宮下。
「10年って感じはしなくて、感覚的には2~3年くらい」と中居。
ニッパツ横浜FCシーガルズの前身である「横須賀シーガルズ・女子」時代から合わせたら15年間。人生の半分以上を二人は「シーガルズ」で過ごしてきた。
その年数を振り返り「恐ろしい」と笑いながら言うが、彼女たちの歩んできた道のりが横浜FCシーガルズの歴史といっても過言ではない。
初めての出会いは中学1年生。
県内屈指の強豪クラブである「横須賀シーガルズ・女子」でプレーすることを選んだ二人は、ここで出会う。
宮下の中居への第一印象は「髪結べ(即答)」。
「未来が超ロン毛でヘアバンドもせずにサッカーしてたから『髪結べ』って思ってた」
ちなみに中居の宮下への第一印象は「だんご頭」だそうだ。
中学・高校と仲間たちと共に切磋琢磨してきた。
横浜FCシーガルズとしてのスタートは突然だった。
高校2年生(2012年)の時に、横浜FCと提携し「なでしこリーグを目指し新たにチームが発足する」ということが知らされた。
突然の知らせに「びっくりした」という中居。
もともとなでしこリーガーを目指していたのか尋ねると、「大学受験を目前にサッカーを続けるかも迷っていた」という宮下。
しかし、高校3年生の1年間プレーをするためにもセレクションを受けた。
セレクションは、横浜FC・LEOCトレーニングセンターの人工芝グラウンドが大勢の人で溢れかえるほどだった。
そのセレクションを突破した二人は、なでしこリーグ参入を目指して「横浜FCシーガルズ」の一員として歩み始めた。
創設1年目の2013年。チームとして活動が始まった当初、平日の練習は週4回。横浜FC・LEOCトレーニングセンターの「体育館」や、横浜市内のフットサル場を転々とした。フルピッチで練習をできる日はほとんどなかった。
「フットサルコートも3面あるうち、最初はフットサルコート1面で、最後の30分だけ2面使えるようになって少しゲームができるくらい」
学校や仕事が終わったあとに集まり練習時間は夕方から夜にかけてで、家に帰れるのは夜遅くだった。2シーズン目の途中から現在の拠点である横浜FC・東戸塚フットボールパークで、固定の場所で練習ができる環境になった。
横浜FCシーガルズの戦いは、2012年まで横須賀シーガルズ・女子が所属していた神奈川県リーグ1部からスタートした。
初年度(2013年)の神奈川県リーグ1部は優勝を果たし、関関東リーグ、チャレンジリーグへと順調にステップを伸ばした。
そして、2015年、チャレンジリーグEASTで優勝を果たし、プレーオフ3位で入替戦に進出。福岡J・アンクラスとの入替戦を2戦合計2-1で制し、なでしこリーグ2部昇格を決めた。
そして二人にとって忘れられないシーズンとなった「なでしこリーグ1年目」の残留を決めた2016年。最終戦まで残留争いにもつれ込み、最終戦も勝利を掴み取ることができなかった。しかし、他会場の結果により奇跡の残留を果たしたのであった。
「試合後、でていた選手たちは全員『終わったわ』と思ってしばらく落ち込んでいて、けどなんかスタッフはニヤニヤしていて」と宮下。聞いたら試合中にすでに結果を知っていたらしい。
そしてその最終節を遡ること4試合前。
2016プレナスなでしこリーグ2部 第15節 ASハリマアルビオン戦。4試合を残し日産フィールド小机で開催されたホームゲームは、既に自力残留の望みは残っておらず、この試合を逃したら他力で残る望みすらなくなってしまう状況だった。中居には忘れられない1点があった。
「残り4試合でもう本当に後がなくて、この試合を負けたら残留の望みが1%もなくなってしまうハリマとの試合で、絵美さん(当時キャプテンの山本絵美)が本当に最後の最後で決めて、他力本願に持ち込んで、首の皮一枚繋いでくれました。あの試合はめちゃくちゃ覚えています」
横須賀シーガルズ出身で数々の功績を残し2020シーズンまで、キャプテンなどを務め、プレーでも精神的支柱としてもチームを引っ張っていた山本絵美(現・ちふれASエルフェン埼玉)のゴールだった。
中居「昇格した一年目は本当に苦しかったよね」
宮下「勝てないわけじゃない…はずなのに負けてしまう。そこが弱いってことなんだろうなって」
順調にステップアップをしていたチームはその後、なでしこリーグ1部を目指して戦うも、2016シーズンから5年間、なでしこリーグ1部の大きな壁に阻まれることとなる。
2016シーズンより日本発条株式会社(ニッパツ)がネーミングライツを獲得し「ニッパツ横浜FCシーガルズ」へチーム名を新たにした。
転機は2018年。
シーガルズは、現キャプテンである小須田璃菜、髙橋美夕紀(現大宮)、大滝麻未(現千葉L)ら13名の新加入選手が加入し、2018プレナスなでしこリーグ2部を最終2位という結果で、1部昇格へ向けた参入戦への挑戦権を得る。
相手は同じ横浜のチーム・日体大FIELDS横浜。
ホーム&アウェー方式で2試合の合計で勝敗が決まる。
1戦目は、シーガルズのホームゲームとしてニッパツ三ツ沢球技場で1564名という過去最高観客動員数の中、開催された。
「あのスタンドは忘れられない」という宮下。
シーガルズの平均観客動員数は約500名ほど。メインスタンドがこれだけ大勢の人で埋まったスタジアムの光景は初めての経験だっだ。
しかし結果は1-2で敗戦。
続く、アウェイもあと一歩のところで届かず、2-3で敗戦し一部昇格を果たすことはできなかった。
この年は、横浜FCもタバレス監督のもと躍進を続け、J1昇格プレーオフに進んだが、両チームともに昇格を逃す厳しいシーズンとなった。
翌年の2019年は5位、2020年は新型コロナウイルスの影響、そして日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」発足が公表されるなど、多くの困難・大きな変化があった。2020年を4位で終えたチームは、WEリーグ開幕に向けたチーム数の変動などにより、なでしこリーグ1部へ自動昇格を果たした。
中居のポジションは主にセンターバック。
宮下に客観的に見た彼女の特徴を教えてもらうと、
「オールマイティ」「バランスが良い」
「一見、ファイターで身体強くて、つぶしてくれて・・・て言うイメージなんだけど、結構足元あって、さらっと『これもできるんだ』って言う感じ。未来はただのファイターじゃないってところを見てください(笑)」
という通り、中居のプレーにはどこか安心感・安定感がある。
「未来だから大丈夫」と思わせてくれる、冷静なプレーを見せてくれる。
しかし、彼女はこの数年の間に、膝に3度の大きなけがを負い、3度の手術をした。
1度目は2018年、1部昇格入替戦の直前の怪我だった。目標を目の前に見ていることしかできない悔しさは、私たちが簡単に苦しかっただろうと無責任なことは決して言えない。みんな「未来のために」と戦ったが、届かなかった。
「やめようと何度も思った」
怪我をするたびに半年以上のリハビリを要し、復帰をした後、また同じ部位を負傷する時期が続いた。
けれど彼女はプレーすることをやめなかった。
それは、「1年間怪我なく戦いきりたい。」という、その強い思いからだ。
宮下は、ここ数年間ほとんどの試合に出場し続け、現在なでしこリーグ通算126試合出場している。
2020年になでしこリーグ通算100試合出場を達成した。
「(達成した時は)今まで他の選手たちのセレモニーを見ていたけれど、単純に自分すげーってなった(笑)」
と本人も言うように、なでしこリーグは年間約20試合。Jリーグの半分の試合数である。
100試合ということは単純に5年間試合に出続けなければいけない。
同じく中居に、客観的に見た彼女のプレー特徴を聞いた。
中居「両足使える」「あとナナはここぞという時に(点を)決めてくれたり、失点を防いでくれたり最後のところで身体を張ってくれる」
また本人に、試合に出場し続ける秘訣を聞くと「怪我をしないこと」だという。
宮下「これは良い言い方ではないかもしれないですが、仮に同じポジションの人が怪我をしていたとしたら、その代わりに出ることができるから」
と負けず嫌いで貪欲な姿勢も彼女の良さである。
彼女が話していたことで印象的深かった言葉がある。
「とにかく毎日毎日うまくなること。へたくそだから、めちゃめちゃ練習して誰よりも練習しようって思っています。『これ』って絞るのではなく『全部』が課題。細かい目標はもちろんあるけれど、とにかくうまくなって苦手なことを少しでも無くしたい」
ポジション争いも激しい中、「誰かに勝つ」前に「昨日の自分より上手くなる」ために続けてきたからこそ、彼女は今シーガルズの中心選手として走り続けているのだろう。
以前、宮下がこんなことを話していた。
「発足当初はほぼ横須賀シーガルズ出身者で、高校生ばっかりでした。同い年と1学年下が10人くらいいて、『あの子たちを育てなきゃいけない』って吉田瑞季さん(2017年在籍)、田中景子さん(2019年在籍)たちが教育係みたいになってくれて、そこから始めてくれました。今までいた先輩たちが本当に優しかった。それがシーガルズなんです!上から下までみんながファミリーで」
「人がたくさん代わって、伝えることが難しい部分も出てきたけれど、年下の選手たちが増えた今、私がその選手たちと積極的にコミュニケーションをとることでシーガルズの良さを伝えたい。横須賀出身者も減ったから伝えられる人も少ないけど横須賀出身者としては『シーガルズらしさ』を残していきたい。いずれはみんな引退するときがくるけれど、それでもシーガルズはこういうチームのままでいてほしい。私は他のチームを見たことないからわからないけど、これからも新しい選手たちの良さとシーガルズらしさをうまく掛け合わせていければいいと思う」
チームは1月下旬に始動し、時之栖キャンプを経て、いよいよ明日3月19日(土)に開幕を迎える。
宮下「(雰囲気は)めちゃくちゃいいです。近年まれにみる良さだと思う」
中居「最初から合流できていたことがここ数年なかったからはっきりとは言えないけど、ここ数年で一番いいと感じます。きつい時とかも声かけあって、みんなでやろうとする雰囲気があって」
宮下「明るいよね」
中居「誰がとかではなくみんな盛り上げるし、若い選手たちも声を出してくれる」
宮下「あとは新加入選手がいい意味で新加入っぽくないかも」
中堅からベテランという立ち位置に変化するなかで二人が意識することは、「そこまで年上っぽくしないこと」「一緒にやる」ということだ。
年下の選手も積極的にコミュニケーションを取ってきてくれることもあり、苦労することはまったくないという。
「ちょろっと敬語使われるくらい(笑)」とチームの仲の良さがうかがえる。
その中で「ピッチ外のところでは、自分たちがしっかりやらないと若い子たちは真似してしまうから。そうじゃなきゃいけないっていうベースをチームとして下げたくないので、姿勢で見せていけるようにしたいです」と中居。
今年で27歳になる彼女たち。
チーム発足当初、まだ18歳だった彼女たちのことを、10歳ほど年の離れた選手たちは「シーガルズで育った子たちだから!」と大切にしてくれた。
今、当時の先輩たちと同じくらいの年齢になった。
二人は、若い選手たちが「可愛い」という。
「昔からのチーム全体で仲のいいところはこれからも残していきたい」
シーガルズのファミリー感を残していきたいという彼女たちのその気持ちも今のチームの雰囲気を作っているのだろう。
チームの目標は「優勝」。
中居「最初はやっぱり大事だと思うので、初戦勝って勢いに乗れるように頑張りたい」
「最初が大事」というように、シーガルズは今季、11名の新加入選手を迎えてシーズンをスタートした。
宮下「メンバーも多く代わって公式戦を一緒にしたことないから、練習でやっている通りにすることは難しいと思う。だから『上手くやろう』ではなくとにかく勝つことを大事にしたい」
中居「あとは今年は多くの人達に試合に見に来てほしい」
宮下「多い時も知っているからこそ今(お客さんが)入っていないな。というのがわかる」
中居「多くの人たちに知ってもらって、スタジアム来てほしい」
宮下「一緒に優勝がしたいね」
最後に二人から日々支えてくださる方々へ。
中居「いつも応援ありがとうございます。今シーズン、シーガルズ創設10年目、新しい歴史を作れるように頑張りますので、今シーズンも応援よろしくお願いします」
宮下「この10年でシーガルズを作ってくれたすべての方々への感謝の気持ちをプレーで表します」
彼女たちのひたむきに戦う姿を、多くの人に見てほしい。
ふたりの試合前のルーティンは「お互いとのハイタッチ」。
映画「ベイマックス」を見てから真似をするよになったという。
今シーズン、ピッチの上で二人のたくさんのハイタッチを見られることが楽しみだ。
3月19日(土)13:00KICKOFF
2022プレナスなでしこリーグ1部
ニッパツ横浜FCシーガルズvs スペランツァ大阪
@ニッパツ三ツ沢球技場