横浜FC

2000年に京都サンガ(当時京都パープルサンガ)でデビューし、フランスやロシアをはじめ世界各国のサッカーファンを魅了した、ファンタジスタ・松井大輔。

 

 

見る者の意表を突くそのプレースタイルは、現役引退を発表した以降も変わらない。

 

 

現在はサッカー指導者として活動するほか、日本フットサルトップリーグ(Fリーグ)の理事長を務め、フットボールを取り巻く環境や選手育成を活性化するための、新たな“仕掛け”を画策している。

 

 

2024年12月15日。

 

 

選手として最後のプレーを終えたのち、どんなチャレンジをしていくのか。

 

 

 

「人生はドリブルです」

 

 

 

23年間のプロ生活を振り返りながら、未来への野望を語ってもらった。

 

これまでも、これからも。

“ドリブル”で魅せ続ける

横浜FCサッカースクールコーチ

松井大輔

取材・文=北健一郎、青木ひかる

新鮮なことが大好き

──今年2月に現役を引退しましたが、「サッカー選手」ではなくなった感覚はどうですか?

これまで自分がやってきたことを子どもたちやいろんな方にコーチングをしていますが、すごく面白いです。また違った「カタチ」でサッカーやフットサルに関わらせていただいて、いろんな発見があって楽しい毎日を送っています。

 

 

──サッカー選手時代の松井さんは、他の人と違う道を歩んできました。

人と同じではなく、自分の道を行く。

 

 

まさにドリブルのように、いろんな国でプレーしたりフットサルをしたりと、新しい可能性を切り開いていく現役生活を送ってきました。

 

 

その経験は、今いろんなことにチャレンジさせてもらっていることに、間違いなくつながっています。

 

 

──「自分の道を行く」という話では、キャリアの終盤にサッカーとフットサルの“二刀流選手”としても活躍し、大きな話題を呼びました。

単純にいろんなスポーツをやっておいた方がいいなと思いましたし、フットサルをプレーしたことで、自分のなかでのフットボールの考え方や価値観がまたアップデートされました。

 

 

今年のパリオリンピックで日本はスペインに敗れましたが、その検証を自分なりにした時に、スペインのほうがピッチの中で「位置的優位」を取れていたことが挙げられるのではないかな、と。

 

 

じゃあなんでそれができるのかと考えると、スペインは15歳くらいまでサッカーとフットサルを両方やっているんです。

 

 

フットサルって、1対1が5つあるような、ずっとハメ合いが狭いコートで行われている状態じゃないですか。それを崩すためには、相手と味方をしっかり見て、自分が位置的優位を取り、速いパスを使いながら相手をはがしていく必要がある。

 

 

スペインの選手は幼少期からフットサルをやっているから、11対11のハメ合いになるサッカーにも応用ができているのではないかと。今、Fリーグにも理事長という立場で関わっていますが、技術やフットボールIQの向上という点ではフットサルの重要性を改めて感じています。

目指す肩書きは「スーパーテクニカルコーチ」

──引退後のキャリアの第一歩として、初めてのお仕事が横浜FCサッカースクールのコーチでした。引き受けた経緯や思いを聞かせてください。

選手を辞めることが決まってから、いろんなオファーやアイデアを持ちかけてくれたのが、横浜FCでした。

 

 

自分が一番やりたいことに対して実現する場所をつくっていただいたことには、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 

──今は小学1年生から6年生に直接指導をしています。ジュニア年代に関わることには、もともと強いこだわりがあったのでしょうか?

1年生から6年生までの6年間は、「ゴールデンエイジ」といわれる期間で、技術の習得に一番適しています。

 

 

しかも、6年生よりも1年生の方が、僕の話を聞いたらすぐにチャレンジして、スポンジのようにどんどん吸いとってくれます。

 

 

ただ、その一番大事な年代の指導が、ちょっと疎かになっていると個人的には感じるんです。

 

 

サッカー選手がどんどん上の舞台を目指していくように、多くのコーチがトップカテゴリーでの指導を目指していく。

 

 

自分はそうじゃなくて、あえて下のカテゴリーに携わったほうが面白いだろうって。僕のクラスにはボールを蹴ったことがない子も、テクニックがある子もいます。

 

 

どちらもうまくするには、コーチとしてのスキルも身につけなきゃいけません。

 

 

他の人がやっていないから、僕はそこにやりがいを感じるんです。

 

──松井さんが教えている横浜FCサッカースクールの「対人強化コース」では、どういった指導を行っているんですか?

世界のサッカー選手を見たときに、どんな選手が人気があり、価値が高いとされているか。

 

 

僕はサイドアタッカー、ドリブラーだと思うんです。

 

 

つまり、日本でもサイドの選手でドリブルができる選手を生み出すことにチャレンジしたいと考えています。

 

 

サイドの選手が個の力をを高めていくことが、世界的なスター選手を日本から生み出すための、一つの糸口になるはずだと思っています。

 

 

先ほど話した「ゴールデンエイジ」の年代から、より質の高い指導を提供してあげることで、この先プロになる選手たちの技術を、もう1段階ランクアップさせたい。そんな思いで今、子どもたちと向き合っています。

 

 

──松井さんのプレーをそばで見られるのは、子どもたちにとっても他では感じられない刺激や経験になるでしょうね。

はい。最初は、誰かの真似でいいんです。

 

 

それは僕でもいいし、自分の好きな選手でもいい。

 

 

日本代表の三笘薫選手(ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFC/イングランド)もネイマール(アル・ヒラル/サウジアラビア)に憧れて今につながっているように、まずはいろんな好きな選手を見て真似して、それを超えていけるように自分の形を作っていく。

 

 

テクニックだけではなくサイドアタッカーには足の速さも重要なので、陸上選手にアドバイスをもらいながら、速く走れるコツをスクールでは伝えています。

 

 

世界のサッカーはどんどんアスリート化が進んでいるので。

 

 

最終的には自分がプレーを決断する必要があるので、身につけた技術をオリジナルなものにしていくことも促していければと思っています。

 

──一方で、トップカテゴリーでもいろんなチームをまわりながら、「臨時コーチ」という形で活動をしているんですよね?

これまでゴールキーパー以外のポジションをプロになってからも経験したので、各チームで自分が気になる選手や、ちょっと見てほしいと言われた選手に、個人技術、個人戦術を指導させてもらっています。

 

 

サッカーでも「ゴールキーパーコーチ」がいるのは当たり前になっていますけど、アメフトのように各ポジションごとにコーチがいて、そこに特化した指導をしていくような時代になっていくと思うんですよ。

 

 

その先駆けとして、僕はドリブルとパスの専門的なコーチになれればいいかな、と。

 

 

ゆくゆくは、カテゴリーに関わらず「スーパーテクニカルコーチ」という肩書きを新しく作ることを目標の一つにしています(笑)。

 

 

横浜FCは「成長著しいクラブ」

──12月15日の引退試合は、2018シーズンから3年間所属した横浜FCが主管となっています。改めて、横浜FCで在籍した3年間は松井さんにとってどんな時間になりましたか?

2018シーズンに加入して、当時のタヴァレス監督の下でいろんなポジションをやりました。一番驚いたのはセンターバックの真ん中で起用されたこと。

 

 

「冗談だろ」ってびっくりしたし、「どうなっても知らないぞ」と思って試合に出たことを覚えています。でも、だんだんしっくりきて、横浜FCでの3年間で一番楽しかったかもしれない(笑)。

 

 

──サイドを主戦場にドリブラーとしてキャリアを重ねてきた分、ポジションが変わることへの葛藤もあったのでは?

もちろん、サイドへのこだわりはあります。

 

 

でも、プロである以上は自分が生きれるところを探して、だんだん変化していかないといけないとも思います。

 

 

ドリブルだけにこだわっていたら、この年齢までサッカーを続けることはできていなかったはず。試合に出て、結果を残すことが選手としてあるべき姿ですし、プレーの幅、サッカーの見方も広がったのはよかったです。

 

──三浦知良選手とは京都サンガ以来、中村俊輔さんとはジュビロ磐田以来二度目のチームメイトになりましたね。

カズさん(三浦知良)はプロ1年目と、横浜FCでは3年くらい一緒だったのかな。

 

 

だから、キャリアの最初と終盤をカズさんと一緒に過ごせたというのは、感慨深いですね。

 

 

コンディションの維持、私生活も含めて、ピッチ内外でたくさんのことを教えていただきました。「プロとはこうあるべきだ」と背中で語ってくれる、人生でもなかなか出会えない存在です。

 

 

俊さん(中村俊輔)は、僕のことを追ってきたんですかね……違うか(笑)。

 

 

でも、“日本代表の10番”だった頃は、近寄りがたい存在だったところから、だんだん晩年になっていろんな話ができるようになりましたね。

 

 

横浜FCでは、1試合だけ俊さんとダブルボランチを組んだこともありましたけど、ボールを渡せばなんとかしてくれるから「よろしくお願いします」という気持ちでした。

 

 

2人とも、心の底からサッカーが大好きなんだろうな、と。そばにいて勉強するところしかなかったですね。

 

──今、また違う立場でクラブに携わっていますが、今の横浜FCをどうみていますか?

自分が加入した時は、正直「このクラブ、大丈夫なのかな」と思うようなこともたくさんありました。

 

 

でもそこからだんだんと、“プロの集団”になってきていると外から見ていても感じます。

 

 

ここ最近は選手育成の面でも、ポルトガルのオリヴェイレンセとのマルチクラブオーナーシップ(MCO)をはじめ、世界のトレンドへのアンテナを張って、どのJクラブよりも速く実現している。本当に成長著しいクラブだと思います。

 

 

選手としては、“最後のドリブル”

──今回の引退試合では「みんなに楽しんでもらう」こと、「他の人とは違う」場にしたいと企画してきたそうですが。

「サッカーって楽しいな」と、この1日で思ってもらえるイベントにしたい、というのが一番です。

 

 

試合については、とりあえず何個か“技”を出していかなきゃいけないですね(笑)。

 

 

サッカーの美学って人それぞれあると思うんですが、僕としては「魅せてなんぼ」のスポーツだと思っています。メンバーも元選手だけでなく現役選手も来てくれますし、エンタメとして楽しめる催しも考えています。

 

 

──メンバーを見ると所属クラブの元チームメイトはもちろん、日本代表として一緒に戦った選手、少し世代の離れた元日本代表選手もそろっていますね。まさにドリームチームというか……。

これまで一緒に戦ってきた“戦友”もそうですし、乾貴士選手(清水エスパルス)、宇佐美貴史選手(ガンバ大阪)……。

 

 

あと、ずっと一緒にプレーしたいと思っていた柿谷曜一朗選手も来てくれるのは、すごくうれしいし楽しみです。

 

 

呼びきれなかったり都合がつかなかったりするメンバーもいますけど、世代の垣根を超えて、見ている人がワクワクするような選手がそろったんじゃないかなと思います。

 

 

──最後になりますが、引退試合とこの先のキャリアの意気込みを教えてください。

人生はドリブルです!

 

 

 

どうですか? 決まりましたか(笑)?

 

 

僕自身はこの先もピッチ外では、道を切り開き、新しい挑戦を続けていきます。

 

 

ただ、ちょっとフルコートのピッチを走るのは疲れてしまったので(笑)。

 

 

皆さんに「選手として」の僕を見てもらうのは、12月15日が最後になります。

 

 

ファン・サポーターの皆さま、そしてパートナー企業の皆さま、いろんな方々に感謝の気持ちを込めてプレーするので、ぜひ楽しみにしていてください。

 

 

松井大輔引退試合 特設サイト

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