横浜FC

2月に開幕したリーグ戦も、残すところあと4試合。

 

 

横浜FCが、ついに「1年でのJ1復帰」に王手をかけた。

 

 

大崩れすることなくここまで自動昇格圏をキープできたのは、J2最少失点の“堅守”を最後尾で支える、ディフェンス陣の奮闘があったからこそ。

 

 

「自分たちが失点さえ防げば、このチームは負けない」

 

 

 

市川暉記とンドカボニフェイス。

 

 

 

幾度となく攻撃を跳ね返しゴールを守り続ける“最強の盾”の2人が、ここまでのチームとしての積み上げを振り返りつつ、目標達成に迫った想いと、その先の景色を見据えた意気込みを語る。

 

 

“最強の盾”で頂きを目指す

ンドカ ボニフェイス DF 2

市川 暉記 GK 21

取材・文=北健一郎、青木ひかる

 

ターニングポイントは「ホームの清水戦」

──残り4試合となりましたが、ここまでの戦いぶりについてどう感じていますか?

市川:2年前にも昇格を経験しましたが、その時よりも安定した戦いができていると感じています。昇格することを前提に話しますが、これまで取り組んできたものをJ1でどれだけやれるかは、今から楽しみです。

 

 

ボニ:昨シーズン悔しい想いをしたメンバーが主力で残っているし、試合を重ねるごとに選手同士のお互いの長所や短所を理解しあって、補えていることが今の横浜FCの強みです。各ポジションでお互いに関係を築けているし、それがどんどん深まっているように感じます。

 

 

──市川選手から見て、2年前とはどういう違いがあるか、もう少し教えてください。

市川:2年前は、小川航基(NECナイメヘン/オランダ)という絶対的なストライカーがいて、彼にたくさん点を取ってもらっていました。一方で失点も多く、撃ち合いになって試合によっては大勝するときもあれば大敗するときもあるような、波があるチームでした。

 

 

でも今シーズンはまず、ディフェンスラインが本当に頑張ってくれて、安定した守備が成り立っているし、満遍なくいろんな人が点も取れている。誰が出ても守れるし、ゴールが生まれるチームになっていることが、今の順位につながっていると思います。

 

 

──開幕2試合を未勝利でスタートしたことで、少し不安もあったのでは?

ボニ:チームは勝って成長していくものだと思ってはいましたが、リーグ戦が引き分けから始まって、そこから何試合かはチームの方向性も曖昧でした。

 

 

ただ、5月のホーム・清水エスパルス戦で勝って「しっかりとプレッシャーをかけながら、背後を狙っていく」という戦い方が明確になったことが、大きなターニングポイントになったのかな、と。

 

 

それでも「J2だから、ここまでうまくいっているんだぞ」という危機感はずっとあります。

 

 

もちろんまずはJ1昇格とJ2優勝が目標ですが、そこで満足してはいけないし、来シーズン上の舞台で戦うためにはさらにレベルアップする必要がある。それはこのチームにいる全員が感じていると思います。

個性を最大限に活かすことが戦術に

──「勝てているからこそ」だとは思いますが、今シーズンは試合や練習以外でも選手間での交流が多く、外から見ていてもチームの雰囲気の良さを感じます。

ボニ:全員参加の決起集会もしたし、夏にはBBQもしましたね。集まりも良くて、ちょっとびっくりしています。昨シーズンは残留争いをしていたから、みんなで集まる空気にはならなかったけど、その前まではどうだったの?

 

 

市川:全員そろって集まるのは、開幕前と最後だけでした。今年みたいに、シーズン途中に何回か集まることはなかったし、5〜6人くらいでご飯に行くことも前より増えていると思います。

 

 

先輩たちもみんなフレンドリーだし、みんな絶対1個はいじられるポイントを持っているので、全員でいじりあっています。

 

 

──どんな「いじり」や「いじられ」があるんでしょうか?

市川:僕は最近だと、無失点するだけでいろいろ言われます。

 

 

ボニ:シュートが少ないときも、SNSに「CLEAN SHEET(クリーンシート)」ってイチだけの画像が投稿されるんですよ!だから、「その前で防いでるんだよ〜」って、ポーズを真似しています。

 

 

(山根)永遠に関しては声が大きすぎることをいじられてますね。元気が良過ぎて、たまに練習中ヨモさん(四方田修平監督)に怒られています(笑)。

 

──2人から見て、四方田監督はどんな監督ですか?

ボニ:優しいですね。ヨモさんを怒らせるのは、永遠と(中村)拓海くらい。もちろん期待を込めてだし、怒っても突き放すことはしない監督です。

 

 

選手の個性を大事にしてくれて、「それはやるな」ということもあまり言わない。個々が強みを伸ばしつつ、足りないところを補い合うこのチームの雰囲気は、ヨモさんが作り出しているのかなって。

 

 

市川:フクくん(福森晃斗)の左足も、ケージローくん(小川慶治朗)のスピードも、具体的に「この形からこう出そう」という明確な指示はないけど、自然と良さが出せている。実は、ヨモさんにコントロールされているのかも。

 

 

ボニ:もちろん、守備のハメ方や配置については具体的な話がありますけど、そこも選択する余地を与えてくれる。なにより個の強みを最大限に活かすことが、このチームの戦術になっていると思います。

 

──そんな個性豊かなチームですが、対戦相手にいたら厄介だなと思う選手は?

ボニ&市川:ユーリ!!!!!

 

 

ボニ:「裏を取られた!」と思っても、ユーリが飛んできてボールを奪ってくれるんですよね。このチームの失点がこれだけ少ないのもユーリのおかげです。味方だと頼もしいですけど、敵にいたら絶対嫌ですね。

 

 

市川:最近は後ろだけじゃなくて、前にも行くもんね。

 

 

ボニ:永遠のクロスから点が決まって、「カプリーニ!ナイス!」って思ったら、ユーリだったこともあります(笑)。本当にすごい選手です。

 

 

耐えていれば、いつかゴールのチャンスが来る

──最終ラインの関係性も、ぜひ詳しく聞かせてください。まず、お二人はお互いに対してどんなイメージを持っていますか?

ボニ:生意気でマイペース!3つ違いですけど、あんまり後輩と思ったことはないです。

 

 

市川:のびのびやれているのは、先輩感を出さずに接してくれるボニくんのおかげです!

 

──プレー面については?

ボニ:イチはキャンプからずっと調子がいいし、試合を重ねるごとに守護神らしさが増してきています。自分の中で守備はGKと一緒にするものだと思っているんですけど、片方のシュートコースさえ消せばだいたい止めてくれるので、とてもやりやすいです。

 

 

市川:昨シーズンはチームとしてもピンチがまず多かったし、ボニくんの負担が大きすぎたのもあると思うけど、外から見ていても正直「大丈夫かな……」と不安になることの方が多かったかもしれません。

 

 

だけど今シーズンは、致命的なミスがほとんどない。ピッチの横幅68mに対応できるカバーリングの広さも別格だし、一番抜けちゃいけない選手だと思います。

 

 

あとはヘディングのゴールさえ決まれば、もう完璧。ガブ(ガブリエウ)は頭で決めてるんで、よろしくお願いします!

 

 

ボニ:そろそろ決めます(笑)。

 

 

──ガブリエウ選手は2年連続でチームキャプテンを担っていますが、どんな存在ですか?

市川:陽気なブラジル人選手が多いのはうちの特徴のひとつだけど、誰かがふざけすぎていると、ちゃんと注意をしてくれるガブの存在は欠かせないですね。

 

 

ボニ:プレーについても、ピタッとボールを止められるし縦パスもバシッと入る。センターバックであれだけ足元の技術が高い選手ってあんまり見たことがないし、自分とは違う価値観や、ないものを持っている選手なので、とても尊敬しています。

 

──J2最少失点で“堅守”という印象も強いですが、一時はリーグ最多得点タイだった時期もありました。紅白戦などを通じて、得点力が上がっている手応えも?

市川:振り返ると、やっぱりホームの清水戦あたりから得点が増えましたよね。でも開幕からぐんと精度が上がったというよりも、もともと持っていた力を、少しずつ出せるようになってきた印象です。

 

 

ボニ:たしかに。最近はソロ(櫻川ソロモン)やトシ(髙橋利樹)も点を取れるようになってきたし、永遠もいいクロスを上げてくれる。(伊藤)翔さんも短い時間でスコアを動かせるし、ケージローくんも今シーズンはたくさん決めてくれてますよね。1タッチでの連携も少しずつ出せてきているし、「自信があること」がうまく数字に現れ始めているんだと思います。

 

 

市川:それに攻撃がうまくいかなくても……。

 

 

ボニ:そう。最後は、“福森様”がなんとかしてくれるから!

 

──やっぱり、選手にとっても“福森様”なんですね。

ボニ:でも、本当にフクくんの存在は大きいですよ。焦らずに「耐えていれば、いつかゴールのチャンスが来る」と思えるのは、守備の自分たちにとっても心強いです。

 

「チーム」や「隣に立つ仲間」のために

──無敗記録は続いていますが、ここ数試合は昇格や残留が懸かった相手に苦戦も続いています。感じている課題感などはありますか?

市川:ボールの奪われどころが悪い点は、少し気になっています。ひとりで守れてしまうボニをどうにか引き出そうとしてくる相手も増えてきているので、そこは心配ですね。

 

 

ボニ:そこはうまく釣られてしまっているシーンが増えているのかもしれないので、気をつけないといけないですね。

 

 

自分としては、この終盤戦は勝点1ではなく3を取りに行かないといけないので、前がかりになることは仕方ないんですが、2対1になってしまう場面は、なるべく減らしていきたいです。注意しすぎて全体が後ろに下がりすぎても良くないので、瞬間的なものは頑張って防ぎたいとは思っていますけど、そこはコミュニケーションを取りながら調整します。

 

──まずは「J1昇格」と「J2優勝」を決める必要がありますが、その先の「J1定着」も見据えて、どんな力が必要になりますか?

市川:昨シーズンの夏に期限付き移籍で加入したガンバ大阪を例に挙げると、1本のトラップやシュートへの「こだわり」を全員が持っていました。もちろん補強もしましたが、その「こだわりの強さ」が積み重なって、今シーズンは好調になっているんじゃないかな、と。

 

 

今の横浜FCもせっかく個性が活きるチームになっているからこそ、一人ひとりが何を伸ばしたかを考えて、もっともっと突き詰めていかなきゃいけない。それができれば、自ずとJ1残留が見えてくるのではないかなと思います。

 

 

ボニ:それに加えて、今シーズンのように足りない部分を補い合う関係性が、J1ではより大切になる。やっぱりサッカーは1人じゃできないスポーツなんだということを、昨シーズンはすごく感じました。

 

 

古巣の東京ヴェルディもJ1に昇格して1年目で上位陣に食い込んでいますが、同じくらいの力をもった選手が、この横浜FCにはそろっていると思っています。

 

 

だからこそお互いを信頼しあって、「チーム」や「隣に立つ仲間」のためにという意識で、残りの試合も来シーズンも戦い続けていきたいです。

 

 

──最後に、ファン・サポーターに向けてメッセージをお願いします。

市川:今シーズン試合に出てみて、声援ってこんなにも力になるんだと感じたし、毎試合本当に感謝しています。このまま昇格と優勝を決めて笑えるように、最後の最後まで、ともに戦ってほしいです!

 

 

ボニ:ニッパツ三ツ沢球技場が満員になれば、どこにも真似できない素晴らしいスタジアムになると思います。選手も結果を出せるように全力で戦うので、実現できるように一緒に頑張りましょう!